科学的根拠の薄いものを信じさせるトリック
センセーショナルな食品の効用や健康法の情報がSNSに出回ることがあります。そうした情報の中には、科学的根拠が薄いものも混じっています。
研究段階が浅い、または信頼度の高い論文がでていない、現時点では科学的根拠の薄いことを、いかにも信頼性の高いものであるかのように見せるトリックがあります。下記のようなトリックです。
- 試験管内の実験や動物実験で結果が出ていることを強調する
- もっともらしいグラフや数字を見せる
- 素人にはわかりづらい統計上の数字を見せる
- 個人の例を「専門家が言った」「これで治った」と強調する
実際の例を元に考えてみたいと思います。
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もっともらしい数字や理論によって話題になった例
2019年の1月頃、紅茶の会社が発信源となり、「紅茶でインフルエンザ予防」という話題が盛り上がったことがあります。この話題は実際に信頼がおけるかどうか、検討してみます。
「紅茶でインフルエンザ予防」は、A「紅茶液にウィルスをつけると、ウィルスが無力化したと言う実験」と、B「紅茶液につけたウィルスをマウスにあげた場合のマウスの生存率が高かった」C「紅茶をよく飲むとアンケートで答えた人はインフルエンザにかかる確率が少なかった」D「紅茶でうがいをした人は何もしなかった人よりインフルエンザ感染率が下がった」という実験結果が宣伝され、話題になりました。
まず、Aは実験室での実験にすぎません。Bも動物実験ですが、人体で同じ条件である保証はなく、「紅茶を飲んだりうがいしたりして人間がインフルエンザを予防」できる根拠にはなりません。
Cは、統計学のわかる人が見れば、実はあまり差異がない結果でした。
Dは、何もしなかった人を比較対象にしているため、「うがい」が良かったのか、「紅茶うがい」が良かったのか、はっきり分からないので、あまり意味のない実験です。
よって「紅茶を飲んだりうがいすればインフルエンザ感染予防になる」という説は、当時科学的な根拠は大してしっかりしていないのに話題になってしまった、と言えます。
専門家や個人の感想はあてにならない
「●人を診察したお医者さん(専門家)がすすめている」「(自分の場合は)●が良くなった」「専門家が考える(もっともらしい)理論」です。
専門家の言うこと、専門用語や理論や数字が使われていたとしても、真に科学的な根拠に裏付けされていなければ、信頼性があるとは言えず、ただの意見、仮説に過ぎません。
また、「これで私は治った」という個人の手記や感想も、根拠は薄いです。
「生存者バイアス」というのですが、「治らない人はそんな手記を書かない」ということも考える必要があります。
科学的にものを考えることと、情緒や感情でものを選ぶ自由
様々な理屈や理論に基づいたライフスタイルや製品の情報が飛び交っていますが、科学的に正しい、と判明していることは、思いの外少ないのです。
日本では「これは有害なのは分かっている。使ってはいけない」「こういう紛らわしい広告は出してはいけない」という基準は設けられているものの、多くのことが、消費者の判断にまかされています。
だから大した根拠なしにある製品やライフスタイルが提案され続け、出回り続けます。
この状況で混乱している人が多い一方、「この製品を使い、この食べ物をこう食べ、こうやって生活しなさい」と、科学的根拠を理由に全てが管理される社会になったら、非常に息苦しいでしょう。
感情や情緒など、科学で測定できないことも、尊重される必要があります。
情緒や感情でものを選び、ライフスタイルを選ぶ自由があるからこそ、少し立ち止まってものを考えることを忘れずにいたいものです。